蜜色トライアングル【完】
「何か食いたいものあるか?」
「サラダと、刺身と……シメに蕎麦。あとは由弦に任せるよ」
「了解」
短く言い、由弦はカウンターの方へと戻っていく。
華やかな容貌に似合わず、由弦の動作はきびきびしていて無駄がない。
幼いころからやっている剣術のせいだとは思うが、その姿を見ると姉といえどはっとすることもある。
ましてや、若い女性ならなおさらだろう。
由弦が動くたびに店内の女性の視線がついて回る。
それを眺めていた圭斗が少し笑った。
「相変わらず人気があるね、君の弟君は」
「……ごめんね、口が悪くて」
「今に始まったことじゃないからね。過保護っぷりも相変わらずだね」
圭斗は言い、木葉の前に置かれた小鉢を指差した。
中身は圭斗のものと同じ蛸わさびだが、木葉の前に置かれたものは明らかにわさびの量が少ない。
木葉は昔から辛味の強い物が苦手で、わさびも少量ならよいが強すぎるとむせてしまう。
おそらく由弦がわさびを極力取り除いてくれたのだろう。