蜜色トライアングル【完】



井戸の中から叫んでも、由弦の姿すら見えない。

真っ暗な井戸の中で木葉は上を見上げていた。

……光の差さない、暗い井戸の底。

……体にまとわりつく、仄暗い冷たい水。

木葉は自分の身が恐怖と寒さで固まってくるのを感じた。


『……わぁぁぁぁん!!』


上で由弦が堰を切ったように泣き出した。

まずいと思っても、井戸の中の木葉にはどうすることもできない。


やがて十分ほど経った頃。

由弦の声を聴きつけた冬青と圭斗が神社に駆け込んできた。

どうやら、なかなか帰ってこない木葉と由弦を心配して探しに来たらしい。


『由弦、どうした? 木葉は!?』


言い、井戸の上から覗き込んだ冬青と圭斗の顔を見、木葉は心の底からほっとした。

じわりと涙がにじむ。

状況を悟った圭斗はすぐに踵を返した。


『ロープを持ってくる。ちょっと待ってろ!!』


圭斗は家の方へと駆け出した。


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