蜜色トライアングル【完】



木葉は男の姿が見えなくなった後、はーっと息をついた。

――――この春に入って、これで何人目だろうか?

春は浮かれ気味とは言うが、あまりに多いと自分に何か原因があるのではと思ってしまう。

といっても原因など思いつかない。


「なんでかな……」


木葉の実家は『桐沢道場』というこの辺りでは比較的大きな剣術道場を営んでいる。

木葉はその道場主・桐沢清二の娘で、自身も幼いころから兄弟とともに剣術に親しんできた。

平日はこの角倉医院で医療事務をしているが、土日は父や兄、弟とともに道場で指導に当たっている。

さっきの患者が自分目当てで道場に来るとも思えないが……。


思わず眉根を寄せたとき、その肩がぽんと叩かれた。

振り向くと、若々しい華やかな顔が木葉の目に入った。


「……凛花ちゃん」


角倉凛花。26歳。

木葉より三つ年上の彼女は、木葉の従姉であり親友でもある。

凛花の父は角倉内科医院の院長で、院長は木葉の父の兄、つまり木葉にとっては伯父になる。


凛花は数年前に医療事務の専門学校を卒業し、今は親の病院で木葉とともに事務をやっている。

巻き髪もアイメイクもネイルもばっちり決めた彼女はいわゆる化粧美人で、毎朝2時間を化粧に費やしているらしい。

もともと可愛らしい顔立ちの彼女がそこまでする必要があるのか? と木葉は思うのだが、凛花にとっては化粧は趣味の一環らしい。

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