のたお印の短編集
Nemesis2
Bar『ムーンライト』。

とある街の一角にあるこの店が、亮二の表の顔を見せる場所である。

寂れた店で、いつ顔を出しても客がいない。

その事は、松岡にとって好都合であった。

亮二もまた、店のドアが開く度に、入って来るのは松岡だと分かっている。

それ故に、いらっしゃいませの一言も言わない。

「おいおい、俺は客だぜ雪村よぉ」

「…いつもツケで飲む悪い客ですがね」

グラスを磨きながら溜息をつく亮二。

その手は静かにグラスを置き、アイスピックを手にした。

丁寧に氷を砕いていく。

< 201 / 210 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop