愛をくれた神様

僕の様子で、15年前の9月20日、台風があった日、このハガキを投函したのは、兄に違いないと彼女は確信したようだった。

たしかに、あの日、唯一兄だけが外出していた。このふぞろいな大きい雑な字も、小学校四年生の男子が書いた字だと言われれば納得できる。差出人の住所も、うちの住所なのだから、たぶんうちに住む誰かが出したのだろう。

 だが。僕はまだ確信にたどりつけなかった。

「……でもだよ。仮にこの手紙を出したのが兄だとしてもだよ。差出人の住所がここなのはおかしいよ。僕らが越してきたのは、兄貴がいなくなってからだよ。兄貴がここの住所を知るわけがないよ。」

そうだ。 僕たちは、台風が始まって、すぐあそこを離れたのだ。

 4日間における豪雨と台風で、家のそばの山が、土砂崩れを起こる危険があると判定されたのだ。

 今でも、あの日の様子が思い浮かんでってくる。

 役所の人なのか、えらい人たちが玄関まで来た。父は最後まで家を離れる事を拒んでいた。

大の大人たちが涙を流し、話し合いをしている様子を、僕は幼いながらもはらはらしながら聞き耳をたてた。恐怖すら感じた。

「お願いや。勘弁してやぁ!。まだカズシが山にいるんや!カズシ置いて山は降りられへん!。」


父の声だった。相手の声も聞こえてくる。

「ここにいたら、あんたも、ノブくんも、山の下敷きになっちまう。明日にはボランティアも来てくれる。カズシくんはできる範囲で俺らで探す。だからあんたは、ノブくんつれて山から離れなさい。」

はっきり覚えているやりとりはそれだけだ。記憶にあるのは兄の名前を呼ぶ父の声だ。

頭を抱える。
ずきんずきんと痛いくらいに心臓が鼓動を打つ。十五年間ずっと封印してきた記憶が頭を支配しようとしていた。

思わず、前のめにになった僕を彼女が受け止めた。

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