廻音
見る間に皿の上にスペースが出来上がる私と対照的に、來玖さんの皿の上には未だ「盛り付け完成図」が残っていた。
一つも手をつけていない状態だ。
あんなに浮かれていたのに、さては体調不良だろうか?

「來玖さん。具合でも悪いの?それなら無理して食べなくても…。」

一瞬キョトンとしてから、彼は顔いっぱいにどこか悪戯っぽい笑顔を貼りつかせた。

「やだなぁ。本当は気付いてるんだろう?



…あぁ。そうか。
クッ…そうだよね。君は照れ屋さんだから、気付いていたとしても合図がなきゃ動き出せないか。
それとも俺からおねだりする方が嬉しいの?」



全く理解が及ばず、彼の「キョトン」よりも遥かに度を超えた「ポカン」で彼を見据える。
「目が点になる」を身に刻んだ瞬間だ。



「解ったよ。



廻音、食べさせて?
君が作ってくれた物を俺の手で消滅させるなんて失礼だもんね。
廻音の神聖な手で食べさせてよ。」



消滅?
何を言ってるんだこの人は。

「あのぅ…申し上げ難いのですが、お箸の使い方が分からないとか、そっち系でございましょうか?
ならばワタクシメが調教してしんぜますが…?」

チラリと彼の顔色を窺う。


「ふっ…ははは…廻音、君ってば本当に恥ずかしがり屋さんなんだね。
あぁもう、可愛いよ。
そういう意味じゃなくて、あ…、でもそうだな。『調教』とは、また随分厭らしい…うん。それもいいかもね。」

思わぬところに食い付いてしまった。
「調教」なんて、そんなの言葉のあやだ。

「でも駄目だよ廻音。
照れ屋の君もそりゃあそそるけど、俺はもう淫らな君を知っ……グッ……」

彼の脛にクリーンヒットした足指先がジンジンと熱を持った。
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