あの夏の恋



愛ちゃんは、もう泣いていなかった。



また、あの眩しい笑顔を浮かべていた。




「愛ちゃんのこと、忘れないからね」

「わたしもだよ、夏くん。会えてよかった」


握っているはずの、愛ちゃんの手の感触が無くなってきた気がした。

見えていたはずの、愛ちゃんが見えなくなった。



「ねぇ、たった三日だけだったのに、こんなに思いは伝わるんだ。ありがとう、愛ちゃん」


「夏くん、夏くん、夏くん、」


「ずっと、そのままの愛ちゃんで居てね」


「だいすきだよ・・・・・」



ふわりと、風が吹き抜けた。



まるで、今まで僕が体験したことは、全て幻だった、何も無かったんだと思わせるような、不思議な感覚に襲われる。



優しい田舎の風が僕を包むと、堪えていた涙が一気にあふれ出した。


何十年ぶりだろうか。

声を出して、泣いた。





蝉の声が、一瞬ぴたりと止まった気がした。




僕は、空を見上げた。






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