エトセトラエトセトラ


灯台守は、いつもひとりであった。

古ぼけた椅子に座り、何百回読んだかも分からない本を読む。

本の背表紙は剥がれかけ、表紙に記された題名は月日の流れと共に褪せて読めなくなった。


ぱらり、と灯台守が本のページを捲る。ウミネコが遠くで鳴いた。

頬を海風が掠め、灯台守の白髪を揺らした。



灯台守はいつもひとりであった。

灯台守に不満などなかった。


空は毎日違う雲を流し、灯台守を楽しませた。

海は毎日違う波を流し、灯台守を楽しませた。

毎日色の変わる空と海を、灯台守は愛していた。



灯台守に不満などなかった。

優しい海風がウミネコの声を運んでくるたびに、心の中は澄んだ気持ちでいっぱいになった。



灯台守は、幸せであった。




ぱらり、本の捲られる音がする。

ウミネコは変わらず空を泳ぎ、トビウオは海を飛んだ。

灯台守はゆっくりと瞼を下ろした。

ぼろぼろの本が、ぱらぱらと風に捲られてゆく。





灯台守は、いつもひとりであった。





灯台守は、幸せであった。




















灯台守の午後

  (ゆっくりと、ゆっくりと)



end



< 42 / 61 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop