エトセトラエトセトラ



彼女の寝息が微かに聞こえる。僕は、電話越しの彼女の夢の中に響くような囁き声で呟いた。


「……結婚、しようか」

彼女の寝息が静かに耳に届く。穏やかな寝息に微笑んで電話を切ろうとした時、声が聞こえた。


「ほんとはね、」

寝言のような、淡い声。


「きみが、死んでしまう夢を、見たの」

僕は携帯電話を耳に押し付けた。


「足が、震えて。立っていられなかった。きみを失ったという事実に耐え切れなかった。心の奥に真っ黒い闇が襲い掛かってきて、」

――絶望、したの。




微かにすすり泣く声が聞こえてきた。夢を思い出してしまったのだろう。


「大丈夫だよ。僕はここに居る。どこにも行かない。死んだりしない」

すすり泣く声が数秒続いてから、ねえ、と彼女が言った。


「次に怖い夢を見た時は、きみに隣に居てほしい」

鈴虫の声だろうか。やけに涼しい心地がする。


「わかった。そしたら一緒に、夜空でも眺めようか」

うん。電話の向こうに居る彼女の微笑む顔が、瞼の裏に見えた気がした。



















絶望と共に眠る

   (睡眠不足も、きみの為なら)




end


< 49 / 61 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop