‐彼と彼女の恋物語‐



先日、彼女は自分で自分の携帯を壊すという情緒不安定な行為をしてしまったので今、手元にあるのは真新しいそれ。


そのまま機種の番号でかけて後程、着信拒否をするという方法もあったのだが、彼が携帯を何十個も購入する可能性を考えたら一番能率的だった。



脳内でひたすら繰り返した応用編を引っ張り出そうとするのだが、流石。伊達に彼の担当をしているわけじゃない。


威圧感に飲み込まれそうだ。それでもここで引くわけにも、後戻りもできないからぐっと震える声を飲み込んで変わりに偽の音で返す。



《ミーヤの食事は多めに入れときました。食器の場所や調味料の器なんかのことは全て紙にまとめて書いておきました。》

《―――それで?》

《私の仕事はありません、御世話になりました》



早口にならないように一言一句気をつけて悟られないように注意する。



《―――――》

《小音ちゃん、もう会えない?》



熊谷さんは頭がよくて性格が悪くて卑怯だ。どうしてこんなタイミングで本音のような問いを溢すのか、知能犯だ。



《…っ…もう、会いません》

《小音ちゃん》

《ありがとうございました》



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