‐彼と彼女の恋物語‐



「てゆーか、なんでいるの。合鍵で侵入した辺りはいいから」

「(そういえば、なんでいるんだろう)」



手を動かしながらも彼と熊谷さんの話に耳を傾ける彼女。それを知っているのかいないのか彼は彼女の背後に回って腕を腰に回す。

身長差があるせいで腰というよりは脇腹だが。



「お仕事のお話で来たのよ~」

「何の」

「11時から打ち合わせと撮影」

「は、もう?」

「帰りは夜中だよ」



ミーヤの柔らかい背中に顔を埋める熊谷さんは深いため息をつく。



「モデルの仕事、なるべくとらないようにするけどさ」

「…………」

「敬が持たないだろうし」

「…うん」

「覚悟は、しとけ」

「うん、分かってる」



きゅっと、腕が強くなる。



「せん、せ?」



後ろから柔らかい髪の香りを嗅ぐように肩口に顔を埋めた彼は、子供が駄々をこねるようにして離れようとしない。



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