‐彼と彼女の恋物語‐

白猫物語。




これは、彼と彼女が出会う1ヶ月前の物語である。


その日は朝から雨が降っていた。春にふさわしい花は空から突き刺すようなそれによってアスファルトの上に絨毯を作っている。


そんな日に限って家の冷蔵庫に何もない小説家は仕方なくマンションを後にした。目的は近くのスーパーだ。



が、しかし。



マンションを出て数歩のところで何やら声が聞こえた。



ーーー「みやぁ」



あぁ、なんだ猫か。微かに聞こえた鳴き声に納得した。何気なく意識をそちらに向けていると水溜りを踏んでしまったらしい。


ばしゃ、っと音がして結構な量をが飛んだことを覚悟して足元を見る。


が、そこに想像したジーンズの水を含んだ色合いはなく。その代わりに、全身ずぶ濡れの灰色の子猫がいた。


なんだなんだ。なんだこの猫。咄嗟に一歩後退。しかし人懐こいのかその猫はパシャパシャと水溜りを蹴って足元にすり寄ってる。



「………かわいい」



小さな身体が雨で濡れているにもかかわらずくりくりの瞳で見上げてくるその可愛らしさに、彼はなんの迷いもなかった。


しゃがみ込んで大きな傘の中に入れると子猫はそっと、膝にすり寄ってきた。



「……名前は?」

「みゃーあ」

「ミーヤか、いい名前だ」

「…………」

「一緒に帰る?今買い物中だから家で留守番になるけど」



そっと右手を伸ばせば小さな頭を撫でさせてくれた。


それが合図だ。彼はひょいっと片手で子猫を抱き上げると早々に帰路につく。


傘を閉めて、今出てきたばかりのオートロックを解除してさっさとエレベーターに乗り帰宅した。



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