忍びの花魅

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【回想中】

半月前の御影屋。

菊屋「どうや太夫?ウチの店に興味はないか?」

京都は祇園からやってきた客、菊屋彦五郎は

御影屋の太夫に対し
身請けの話を持ちかけたのである。

身請けとは、この吉原という遊郭から外に出ることで、敷いては足抜けさせてくれた相手の元に身を託すことである。

普通は婚約を意味するのだが

この菊屋にはすでに妻子があり、色恋沙汰には興味がない。愛人もいらぬと言う。

となればどうしたいのか。


…なんと、自分の店に引き取りたい というのである。

これは前代未聞。

遊女が別の遊郭に移動する。

しかも この桜太夫は御影屋のみならず、江戸吉原において、全ての遊女、花魅達のトップに君臨するおなごである。

彼女がいなくなるということは、吉原にとって死活問題になり兼ねない。

おなご等の最後の砦、この大きな吉原が無くなってしまうやもしれぬ。

菊屋は、桜太夫をもらうなら、いくらでも金は払うと言うが

店一つが払える金など所詮しれたもの。

吉原は大ダメージを被ることになる…。


【回想終わり】
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↑これがその 厄介な話 の全容だ。


これだけでも随分欝陶しい話なのだが、

その座敷には
隣で青ざめる御影屋の亭主の側で、一人 もう一つの不安を胸に秘めている桜太夫がいるのであった…。



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