期間限定の婚約者
 私は乱れた着物の襟元を掴むと、かーっと顔が熱くなるのを感じた。

 恥ずかしい。こんな姿を新垣さんに見られてしまうなんて。

 きっと淫乱な女だって思われたに違いない。

「確か……桜木専務の娘さんだった、よね?」

 口に入れていた煙草を指で掴んで、新垣さんが携帯灰皿にねじ込んだ。

「あ、はい。お久しぶりです」と、私がペコっと頭をさげた。

 前回のパーティからすでに8カ月が過ぎている。

 私の顔を覚えてくれていたなんて、嬉しすぎる。

「随分と着乱れてるねえ。大丈夫?」

 新垣さんがニコッと爽やかな笑みを見せた。

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