泡沫眼角-ウタカタメカド-

そんなに笑うこともないだろうと思った。
言乃はこれを大真面目に言っているというのに。

失礼にも程がある。


『ハハ……悪い悪い。そんなきれいごとをパッと言う奴は初めてだったからよ』

「普通だと思うんですけど…」

『そうか?』


力一杯頷く。
ファントムはあれぇ、と頭をかいた。


『まぁ…普通じゃなかったかもな』


ポンポンと言乃の頭を叩き――言乃には少し何かが触ったように感じられた――立ち上がった。


『ありがとよ、コト。なんだかスッキリした』

「それならなによりです」


――これくらいの恩返しは、させて頂きませんと

与えられるだけでは、なんだか寂しいから。


役に立てたことが、ポカポカとして、今すぐスキップでもしたい気分。
それがわかったのか、応えるようにファントムも薄く笑った。


『思いなんて気づいてからすればいい。落とし前なんて、全部わかってからつけりゃいいんだよな』


言葉の意味なんてわからなかったけど、彼がそう思うならそれでいい。

言乃には、そう思えた。






このことがきっかけになったかどうかはわからない。

けれど、その翌日から。



ファントムは言乃の前から姿を消し、それ以降会うことはなかった。



炯斗を通じて再会するまで……――


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