泡沫眼角-ウタカタメカド-

「しかし、怪しげな人間、いませんねえ…」


思わず出た言葉。
眠気覚ましのコーヒーを飲んでいた狸翠は眉間をぐっと寄せた。


「ばっか、そりゃ簡単に出てきてくれりゃこんなに事件は複雑になってねえよ」

「まあそうですけど…」


濃いブラックコーヒーを流し込みながら狸翠はううん…と唸った。


「まあ、選挙事務所で起きた方は簡単に出てきてくれたからな…」

「だからこそ、わかったこともありますがね」


第三、第四の事件が起こった付近のカメラを確認したところ、いかにも怪しく、挙動不審な人物がバッチリ映っててくれたのだ。
大きなその大きな収穫の後では、ぼやきたくなる気持ちもわかる。

しかし、第三と第四があまりにもずさんな犯行であったことから模倣の犯行であることが結論付けられた。
それだけは、前進ということができる。

それに比べ、以前の犯行は証拠も少ない。

第一の事件の現場となった路地裏となれば、道は入り組み様々なところにつながる。
故に様々な人間が使う。
一概に怪しい人物といえるものが見えてこない。


< 231 / 267 >

この作品をシェア

pagetop