泡沫眼角-ウタカタメカド-
しかし、それが堪えることもなくトシオも続ける。

何だか、噛み合っていなくても二人は話を続けていきそうだ。


「日奈山がいないなら今日は僕がことのんを悪い虫から守るよ」

このセリフがこんなにも似合わない人間も稀である。

ほったらかしにされて恵は口を尖らせた。

「あなたも炯斗もいなくても、虫なんかつかないし」

「さっき怪しい人に連れていかれたって言ってたじゃないか!」

「怪しい人はカメムシじゃないもの!!」


一時停止。


再生。

「はい?」

「え? なに?」

一瞬止まった時が動いても、流れる空気は重い。

「私、何か変なこと言った?」

「もの凄くね」

もどかしい靄が恵を包むと同時に、恥ずかしい体温もあがっていく。

「何なのってば!」

【恵ちゃん。
ここでいう悪い虫とは――


――言い寄ってくる人のことであって、本当の虫ではないんです】


「っ、――!!」


臨界点、突破。
恵の顔が一気に赤く染まる。


穴があったら入りたい!
顔から火がでる!


「そういうこともあるさ」

「うるさいッ!」


バシッ――!


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