悪魔のようなアナタ【完】
「どうした、灯里?」
「……」
「何があった?」
晃人の瞳が心配そうに覗きこむ。
灯里は晃人の一重の瞳をぼーっと見つめていたが、やがて我に返り慌てて立ち上がった。
「ごっ、ごめんね晃くん……じゃなかった、取締役っ」
「何言ってるんだ、今更」
「え、えっとでも……そのっ……」
取締役にヒラ社員の足を拭かせるなど、昔なら『無礼討ち』ものだ。
灯里は慌てて立ち上がって辺りを見回した。
幸いロビーには誰もいないようだが、こんなところを誰かに見られたら……。
「す、すみません。失礼しますっ」
これ以上晃人に迷惑をかけるわけにはいかない。
灯里はぺこりと一礼し、宴会場の方へと走り出した……。