悪魔のようなアナタ【完】
「なんだか懐かしいな。……覚えているか? 昔、一緒に山梨に桃狩りに行ったな」
「うん。もう、10年以上前だよね」
「そうだな。俺が高校の頃で、お前はまだ小学生だったか?」
「そうだった……ような気がする」
あの時も晃人はこうして灯里のために桃を取り、切り分けて食べさせてくれた。
もう10年以上経つのに、まるで昨日のことのように思い出す。
思い出にしばし浸った灯里の口元に、桃の切れ端が当たり果汁がついた。
あっと思った瞬間、晃人の指が伸びてすっとその滴を掬い取る。
驚き息を飲んだ灯里の視線の先で、晃人は滴を舐めてくすりと笑った。
昔から見慣れた一重の瞳に、かすかに艶が混ざる。
灯里はドキっとし、思わず視線をそらした。
「……」
「甘いな」
「……うん」
灯里の胸がなぜかトクンと高鳴る。
晃人は昔から変わらないと思っていたが、ひとつだけ変わったことがある。
それは、……晃人の瞳。