黒水晶
8 接近

8‐1 魔女の血



街はずれに位置する、塔の頂上。

しばらくそこに居たイサとマイは、宿に戻ることにした。

これ以上街中で聞き込みを続けても、新たな情報は得られそうにないし、もうじき日が沈む。

昼間はあれだけ賑やかだった街も、今では人の通りが少ない。

各家庭から、夕食の匂いが漂ってくる。

夕暮れが空のすみに追いやられた道中、イサはサッパリした表情で、

「エーテルの体調が整い次第、次の街へ向かおう。

そこでまた、新しい情報が入るかもしれない」

「そうだね……」

イサの横顔を視線だけで見て、マイはうなずく。

途中、彼女は疑問を口にした。

「イサは、一人っコなの?」

イサは目を丸くした後、穏やかに、

「ああ。たとえ、王妃…母さんが生きてたとしても、下に兄弟は生まれていなかったはずだ。

王家に兄弟はご法度(はっと)だからな」

「ごめんっ。私、無神経なこと……」

亡くなったイサの母親の話。

そこに触れてしまったことを、マイは必死に謝る。

イサは何とも思っていないようで、クスッと笑い、

「気にするな。

そんなに心配ばっかしてたら、疲れるぞ?

王家の後継ぎは、一人に限る。

そうじゃないと、いろいろ大変なんだ。

王子や王女になりえる人間がたくさん居たら、自分の立場を深く考えず無責任になるからな」

「そういうものなんだぁ……」

王族の事情をイマイチ理解できないマイは首をかしげる。

「私は、兄弟や姉妹に憧れるけどなぁ」

そんな風につぶやく無邪気なマイを、イサは神妙な顔で見つめ、

「実は……」

と、口を開きかけたとき――。

地に寝そべったホームレスらしき初老の男が、突然、背後からマイの足首をつかんだ。

「キャアァ!!」

強い力で右足を捕まえられ、マイは悲鳴を上げる。

すっかり油断していたイサはそんな自分に毒づき、男の腕を瞬間でひねりあげ、マイから離れさせた。

「大丈夫か!?」

男からかばうように、イサは自分の背にマイを隠す。

「見ない顔だが、貴様は何者だ?

このコが魔法使いだと知って、近づいたのか?

何が目的だ」

イサは鋭い瞳で、地面でうつぶせに寝ている男をにらんだ。

イサの影に隠れ、マイは小刻みに震えている。

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