黒水晶

8‐3 見知らぬ者


イサは倒れたローアックスの体にまたがり、剣の刃先をローアックスの首元に近付けた。

「なぜお前はエーテルを狙う。

ルーンティア共和国の敵か?

それとも、ガーデット帝国の滅亡を企んでるのか?

どちらでも同じことだが、白状しろ」

彼らしくない低くて恐ろしい声色のイサに、マイは身震いした。

ローアックスは歯をかみしめると、イサをバカにするような笑みを浮かべ、言った。

「ガーデット帝国のおぼっちゃま、か。

国の歴史を何も知らないくせに、ガーデット帝国の王子だと?

よく、堂々と名乗れるものだな」

「それはどういう意味だ。

ガーデット帝国を冒涜(ぼうとく)しているのか?


俺は、幼い頃から国のために、国に関する事は全て学んできた。

当然、歴史上に起きたことも全て、間違いなく言える。

なのに、王子を名乗るのはそんなにおかしいことか?」

イサの気迫におびえることなく、ローアックスはわざとイサの神経を逆(さか)なでした。

「フン。本当に、イサ様は哀(あわ)れなお人だ。

国内有数の剣術師だか何だか知らないが、才能があるからっていい気にならない方がいいぜ。

『おぼっちゃん』」

「ローアックス……。

お前を、ガーデット帝国の反逆者として、この場で処刑する」

冷たい声でイサは言った。

彼が、ローアックスのノドに剣を刺そうとした瞬間、何者かが放った防御魔術がローアックスの身を守った。

ローアックスの体を包むように、一瞬にして透明のシールドが張られている。

「何者だ!?」

イサが空間に呼びかけると、フェルトが現れた。

「イサ。この人を危(あや)めてはいけません」

「危めるんじゃない!

護衛のための最重要任務だ!」

イサは強い瞳でフェルトを見やった。

フェルトは浮かない顔をしつつも明るい口調で、

「その人から、不自然な気の流れを感じます。

私に彼を預からせて下さいませんか?

というか、そうさせていただきます」

目を白黒させるローアックスを横抱きにし、フェルトは姿を消した。

瞬く間の出来事に、イサ達はあっけにとられ、立ち尽くす……。

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