黒水晶

9‐2 任務、完了



一同は、いよいよガーデット帝国にたどり着いた。

「わぁあ……」

初めて訪れるガーデット帝国、城下街。

それは、旅の途中で寄った街よりはるかに広大で、マイは体が宙に浮くような感覚を覚えた。

にぎやかで華やかな、明るい城下街。

それとは真逆のガーデット城は、街の中心にあった。

重々しい茶色の城壁に幾重にも阻まれた城の周りには、等間隔に兵士が立っている。

初めて体感する都会の風景に、マイはただただ息をのみ、刺激を受け、感動していた。


イサを先頭に、一同は城門前で警備員たちのチェックをあっさり通過する。

一般の旅人ならこうはいかない。

マイとテグレンは、その優遇さ加減にドキドキしてしまう。


城下街を歩いて城に向かう途中、何人もの人々がイサに声をかける。

みんな笑顔だった。

老若男女問わず、イサの姿を見た者はみんな口々にこう言った。

「イサ様、おかえりなさいませ。

よくぞ、ご無事で。

とても嬉しいです」

人々の対応に、イサは照れることも戸惑うこともなく、端正な顔立ちに紳士的な笑みを浮かべ、

「ありがとう。

皆が元気でいてくれて、私も嬉しい」

と、王子たる口ぶりで対応していた。

「イサ、キャラ違う……。

『私』って……。いつもは『俺』って言うクセに」

マイは不満げにボソッとつぶやく。

イサは後ろにいるマイの方に向き、街の人々に見せる微笑のまま、

「マイといると、立場など忘れて、気を許してしまうからな……」

と、柔らかい口調で言った。

立派に自分の職務をまっとうしているイサに疎外感を覚えかけていたマイも、その一言で、自然と浮上した。

テグレンは、マイとイサのやり取りを見て、

「立場を気にせず気楽に付き合える友達ほど、貴重な存在はないよ」

と、珍しく深い感情を込めた。

「そうだな」

イサは穏やかにうなずくと、街の人々の対応をしつつ、イサの住居でもあるガーデット城へと歩みを進めた。

城壁の前に一列に配置されている兵士達は、イサの姿に気がつくと腰を45度に曲げ、敬礼をした。

庶民として暮らしてきたマイとテグレンは、兵士達の対応にドギマギしたが、イサとエーテルはこういったことに慣れているらしく、何でもない風にスタスタと歩き、先を急いだ。

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