黒水晶

深刻な雰囲気を飛散させたのは、連続したノックの音。

イサの部屋に訪れ、何度も部屋の扉を叩いたのはテグレンだった。

「イサ!!

いるかい?」

普段からどっしり構えているテグレンらしくない、急(せ)いた声である。

フェルトはイサに目配せをし、

「私達は、引き続きこの城の偵察を続けます。

私も細心の警戒をしますが、イサも、ヴォルグレイト国王の動向には注意して下さい。

もっとも彼に近く、干渉しやすいのはあなただけです。

では、また……」

レイルとフェルト、二人の姿はあっという間に無くなり、イサ一人の空間に戻った。

動揺を悟られないよう、イサは表情を作って扉を開けると、テグレンの対応をした。

「そんなにあわてて、どうしたんだ?」

「マイが!! マイがいないんだよ!

部屋で昼寝するって言ってたのに、物音がするから変だと思って様子を見に行ったら、マイの部屋には誰もいなかったんだ……!」

「何だって!?」


テグレンは、隣にあるマイの部屋から大きな物音がしたので、気になってマイの様子を見に行ったそうだ。

そしたら、そこには大量の木の実があるだけで、マイの姿はなかったという。


ついさっきフェルトに聞いた話が頭によぎり、イサは嫌な予感がした。

もし、マイの身に何かあったら……!

胸が苦しくなる。

「わかった。俺が、マイを探しに行く」

「城の人達にも知らせた方がいいんじゃないのかい?

ただでさえ、あの子を狙う輩(やから)は多いんだろう!?

みんなで手分けして探してもらうべきさ!」

イサは申し訳なさそうに目を伏せ、

「……悪いが、それはダメだ。

マイがいなくなったことは、城の者にはもちろん、ヴォルグレイト国王には絶対に気付かれてはならない……。

俺が必ず、責任持ってマイを探し出し、無事に連れ帰るから…!!」

今までにないくらい、イサの口調は強いものだった。

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