黒水晶

エーテルは、昨夜と変わらぬ落ち着いた様子で説明する。

「昨日、あなたのオーラを読み取らせてもらった。

街に行き、そのオーラと同じ色の家を探し出し、屋内の荷物をまとめた」

「鍵はどうしたんだい?」

テグレンは恐る恐る尋ねた。

「鍵がかかっていても、物質を手元に引き寄せることはできる。

この家に護りの壁を残して、あなたの荷物をまとめに出かけた」

イサも驚いた。

「そうだったのか。俺が普通に護衛してる間に、そんなことまで……。

やっぱりエーテルの魔術は目を見張るものがあるな」

「私の残留魔術は完璧じゃないけど、そうできたのはイサの剣術に頼れると思ったから」

残留魔術とは、エーテルのいない場所にも魔術をかけられることを指す。

エーテルはまっすぐイサを見つめる。

テグレンはエーテルの配慮に感激し、

「ありがとうよ、エーテル。

この中には、大切な物が入ってるんだ。よかった……。

本当にありがとう」

「礼には及ばない。

私たちが勝手に押しかけたのだから」

と、エーテルは涼やかな瞳にかすかな笑みをもらした。

マイはテグレンに微笑みかけ、尋ねる。

「よかったね、テグレン。

それにしても、テグレンの大切な物ってなんだったの??」

「娘の写真だよ」

「えっ! 娘!? はじめてきいたよ……。

テグレンにも子供がいたんだね」

マイは驚きを隠せず声が裏返ってしまった。

「……ああ。家を出ていっちゃったんだ。この街へ来る前の……ずーっと昔の話さ」

「そうだったんだ……。ごめん、変なこときいて……」

マイは気まずそうにうつむく。

< 19 / 397 >

この作品をシェア

pagetop