黒水晶

マイとイサが城の出入口に着くと、テグレンが嬉しそうに二人を出迎えた。

「マイ! 無事でよかった…。

イサも、公務があるのに時間を割(さ)かせて、悪かったねえ…」

イサが公務を放り出してまで森に駆け付けてくれたことを知り、マイは謝った。

「イサ、ごめんね。

私、勝手なことした……。

城から出るなって言われてたのに……」

イサは首を横に振り、

「いや、構わない。

これも仕事だから。

じゃあ」

「……イサ」

ためらうマイを後にして、イサは颯爽(さっそう)とその場を去った。


わずかな間だが、イサはたしかにここにいた。

それなのに、それすら無かった出来事のように、当たりには透明な空気が漂う……。


イサの姿が通路の奥に消えた頃、テグレンはマイに尋ねた。

「一体、何しに行ってたんだい?

いきなりいなくなるから心配したよ」

「ごめん、テグレンにも心配かけたよね。

森まで、木の実を取りに行ってて……」

マイは、そうなったいきさつをかいつまんで話す。

< 200 / 397 >

この作品をシェア

pagetop