黒水晶

10‐2 見えざる敵



「国王……!」

父の対応に動揺しつつも、イサは仕方なく、鞘(さや)から剣を引き抜いた。


ヴォルグレイトは昔から熱くなりやすいところがあったが、今回もそうなのだろう。


「父さんがその気なら……。

手加減しません!!

私が勝ったら、本当のことを話していただきます!」

イサは覚悟を決めて、ヴォルグレイトの方に駆け寄り、剣を振り上げた。

親子同士の決闘。

城内は一気にざわついた。

皆が、冷や汗を流して戦う二人の姿を見ていた。


こうしてヴォルグレイトが暴走した時、止めに入るのは、いつもカーティスだった。

ヴォルグレイトは、カーティスに対しては素直で、彼に止められると刃向かうことはなかった。

だが、カーティス亡き今、この城中でヴォルグレイトに意見できる者はいない。


“ヴォルグレイト様の行いは絶対だ。

口を出したり、逆らったら、どうなるか……”

城の人間達は皆、そう思っていた。

尊敬と恐怖心をないまぜにした感情。

こわばる表情で、ヴォルグレイトとイサの戦いを見ていた。

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