黒水晶

10‐3 黒水晶


「こらこら。復讐なんてみっともない真似、やめて下さい。

あなたも、憎きヴォルちゃんと同類になってしまいますよ」

軽やかな口調で現れたのはフェルトだった。

「フェルトさん……!」

マイは魔法壁を維持したままフェルトを見遣る。

他の者も、彼の方に振り向いた。

フェルトのかたわらにいたレイルも、ディレットを止めるべく訴えた。

「ディレット様、やめてください。

俺も、ディレット様の気持ちは痛いほど分かる。

でも、殺し合いは新たな憎しみと悲しみを生むだけ……。

俺達のような思いをする人間を、これ以上増やしたくないんすよ!」

実感のこもったレイルの言葉に、フェルトは憂(うれ)いた笑みを見せ、ディレットは鼻を鳴らした。

「フェルトにレイル……。お前達も生きていたか。

しかし、再会の喜びも消え失せるほど失望した。

お前達は、トルコを愛していなかったのか!?

この国を憎く思わないのか?


仇討(あだう)ちは至当。

両親を虐殺され、友人の死に様を見せつけられ、孤独の涙を流したのは、俺だけではないだろう?

ヴォルグレイトは我々の国を滅ぼすだけでは飽き足らず、更なる自国繁栄を目論(もくろ)み、甘い蜜を吸おうとした。

そんな奴が統治してきた国など、この世に残しておく価値もない!!

民衆共々全滅させてやるのが今後のため、世界のため!!


禁断剣術書を所蔵しながらもそれに満足せず、ひたむきに生きたアスタリウスとトルコの民を潰したこの国が、ヴォルグレイトのことが、俺は憎い!!

こう思い巡らすことの、何が非道だと言う!?」

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