抹茶な風に誘われて。~番外編集~
 ホームへの階段を降りる直前、振り返ってもまだそこにあったスーツ姿になんて、気づかないふりをして。

 ――今日は、バレンタインだし。

 少しくらい、ドキドキしてみたり、こんな風にときめいてみたりもいいじゃない。たとえ、相手があのダメダメホストでも――。

 本気じゃない。絶対、本気なんかじゃないんだから――自分で自分に釘を刺しているような、言い聞かせているような心の声。

 普段なら聞き入れるはずの指示を、なぜか今日だけ無視しちゃってもいいような、そんな気がしてしまうのも。全部、全部。

「だって、バレンタインだもん」

 ねえ? 淳之介――今頃、あのチョコの正体に気づいているだろうお間抜け面を思い浮かべて、あたしはそっと笑うのだった。
 



 Fin.


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