ハレゾラ

「僕の家じゃなくてごめんね。でも、温泉の方が良かったかも」


「な、なにが!?」


「着いてからの、お楽しみ」


またお楽しみですか……。今度のお楽しみは、少しばかり心臓に悪い。
温泉という響きに動揺している私がいる。きっと彼は、私の同様に気付いて
いるんだ。

意地悪小悪魔。

私の顔を見てニコニコしている彼。もう諦めたほうがよさそうだ。
だって私はそんな彼も……好き? みたいだから。

旅館に着くと、すぐに女将さんらしき人物が入り口から駆け寄ってきた。


「野口様でございますか? 大変お疲れになったでしょう。さあさあ、どうぞ
 中にお入りください」


とても感じの良さそうな人だ。その声に、気持ちがとても落ち着く。


「はい、ありがとうございます。咲さん、行こう」


「うん」


泊まる予定ではなかったから、特に大きな荷物もない。小走りに彼の後を着い
ていく。
 
フロントに着くと、彼が宿泊名簿に名前を書き出した。
< 88 / 237 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop