雫-シズク-
黒炎。
葵さんを取り戻そうとしか考えられなかった時間が過ぎ去って、俺は放心状態でやけに静かな食堂の片隅にぽつんとうずくまり動けない状態になってしまっていた。


完全に力尽きて、魂さえ抜け出たような感覚。


葵さんの傷を塞ぎ続けた手にも、少しでもその命を留めるために沸騰させた頭にも、あらゆる願いを叫んだ心にも、今はどこにも自分の生を感じられない。


床の上で膝を抱えて丸く小さくなりながら、俺はぼうっと焦点の合わない目で空中を見上げていた。


まだ生々しくまぶたの奥に残る経験したことのない張り詰めた空間の中にいた葵さんは。


見たことのない機材や聞いたことのない専門用語の中心にいた。


そして数人の救急隊員に坂井さんと一緒に慌ただしく救急車で病院へと運ばれて行った。


出発する時俺も一緒に乗り込もうとしたけど、坂井さんに指示されて学園に残されてしまった。


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