私の片想い事情 【完】

「少しは落ち着いた?」


ホットタオルを渡され、それを目に当てる。


熱すぎず、ねるすぎず、絶妙の温度のそのタオルは、泣いて寝不足の腫れた目にじ~んと染み渡る。


ふかふかのベッドの上に大の字に寝そべり、泣き寝入り状態の私。


「何か食べる?それとも寝る?」


いつもと違って異様に優しいこの部屋の主は、ベッドサイドに少し腰をかけ、優しく尋ねる。


心地よい声だなぁと聞いていると、「やっぱり寝なさい」と言って、それはそれは肌触りの良い羽毛布団をかけてくれた。


外はうだるくらいの暑さなのに、この部屋の空調はとても心地良い温度に保ってあり、この夏用羽毛布団にくるまれると、まるで天国にいるような気分になる。


「亜紀さん、迷惑かけてごめんなさい」


私は何度目かわからない謝罪の言葉を口にする。


「そう思うなら、朝の5時にピンポンを鳴らすのはもうやめてね?」


いつもは毒を吐く彼女の声は、すごく優しく耳元に響き、また新しい涙を誘う。


「全くどこにそんな水分があるのかしら?来てから泣き通しね」

「ごべんなざい……グス……」


ああ、私、亜紀さんがいなかったら、今頃家の近くの公園でみっともなく泣き叫んで野宿していたわ。


もう温くなったホットタオルでぐいっと目元をぬぐい、亜紀さんに渡した。


亜紀さんは、「擦るともっと腫れるわよ」と頭を撫でてくれた。





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