理想の瞳を持つオトコ ~side·彩~

忘れえぬ人

泥のように眠る私を起こしたのは、耳慣れた携帯電話の着信音。


眠気に勝てず、目を開けられないままモゾモゾとサイドテーブルに手を伸ばし、携帯電話を掴んで耳にあてると…

「もしもし、彩ちゃん?
もう準備、出来てはる?
待ち合わせは、どないしよ?」

飛び込んできたのは、昨日約束した葉子さんの声。


『はんなり』という表現がピッタリの、穏やかな口調の葉子さんとは対照的に、ベッドから飛び起きて慌ただしくスーツケースから着替えを取り出しながら…

「すみません。
まだ、準備出来てないんですけど、直ぐにしますから!
ドコに行けばいいですか?」

慌てて答える。


「うふふ。お疲れやったら、無理せんかてエエんよ」

楽しそうに笑う葉子さんには、何もかもバレてるがして、恥ずかしさを感じつつも…

「いえ、とんでもないです。
大丈夫です」

なんとか声だけでも冷静さを保とうと、自分を落ち着かせる。


「ほな、12時に京都駅はどう?
お友達がやってはる、エステに案内しようか思てるんやけど、観光の方がエエかしら?」

葉子さんの提案に、

「わぁ、エステ。
是非、行きたいです」

疲れた躰を癒してもらえるかと思うと、ついテンションが高くなってしまう。


「ほな、そうしましょ。
そこで食事も出来るよって、メイクも控えめでかまへんえ。
ほな、後で」

「よろしくお願いします」

そう言って電話を切ると、急いでシャワーを浴びにシャワールームに駆け込む。


腰の重だるさも忘れるほどの大急ぎで、薄いレモン色のワンピース着替えて髪を結い、簡単にメイクを済ませると、ミラーの前にメモを見つける。

『おはようさん。
疲れてるやろうし、起こさんと行くわ。

帰りは19時頃の予定。
夕食は一緒に食べよ。

葉子さんによろしく。
逸晴』

たったそれだけのメモが、とっても嬉しくて、胸が熱くなる。


だって、今夜も一緒に居られるってことだから。
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