理想の瞳を持つオトコ ~side·彩~

壊れた日常

差し入れはいつも…

『観客を入れる前に舞台の感じを確かめる為にする』

という、リハーサルの後に、楽屋に届けていた。


今までの楽屋は大部屋だったから、ノックしてドアを開ければ直ぐに誰かが、

「美味しそうな匂い~」

と、言いながら近づいて来てくれるから…

「宜しければ、皆さんでどうぞ」

と言いながら、渡せば良かった。


けれど今回は…
主役だからと、小さい個室が与えられたと言っていた。


控室の前で立ち止まり、差し入れは洋介に渡すべきか…

それとも先に、大部屋に寄るべきか…

いやいや、演出家の先生が先だろうか…

なんてコトに頭を悩ませる。


しばらくボーっと考えていたら、中からかすかに話し声が漏れ聞こえてくるのに気づく。


…電話?


ううん、違う…
この部屋にもう一人いるんだ。


誰かな?


打ち合わせとか…
舞台絡みの話だったら、開けちゃ迷惑だよね。


ノブに手をかけたままの状態で、固まっていると…



ガチャリ



突然、ドアが開く音がして…

慌ててドアノブから手を離すと、勢い余って尻もちをついてしまった。
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