-Vermillion-
 買い物袋を持った加奈と合流して、家に戻ると真朱は不在だった。
「さっき谷村が呼び出したから、暫くは帰って来ないはずだよ。」
 
 袋から冷蔵庫に食品を移しながら、加奈が此方にウインクを投げた。
「今回時間無かったから、スポンジは家で焼いて来た。」
「あとはクリームだけ…?」
「挟むフルーツと苺もあるよ!」

 二人でホイップを均等に塗りながら、
 プレートにピンクのチョコペンでハートを書いてみたりしつつ、
 デコレーションをしていく。

 滑らかなクリームが降り積もった雪のように綺麗だ。
 私達は出来具合に大満足だった。
 最後に大好きな真朱に想いを込めて、お祝いの一言を書く。
 よし、出来上がりだ。

 ケーキを冷蔵庫に隠して、
 三日前に作った輪飾りをリビングの天井に飾る。

 夜十一時半、爽から電話が掛かって来た。
 丁度いい頃合いだ。
 私と加奈は電気を消して、玄関で真朱と爽の到着を待った。
「暗いけど大丈夫?まぁ慣れないとね。」
「うん、平気…」
「いつまでも真朱が傍にいてくれる訳じゃないし。」
 
 暗いながらに加奈を見た。
 どうしてそんな事を言うんだろう。

「朱乃、お兄ちゃんだけは絶対朱乃の傍を離れないから!」
 
 小さい頃、真朱は飽きる程そう言ってくれた。
 勿論子供の約束だって事は分かってる。
 でも私達は兄妹だ。一生離れる事はない……あれ?
 それは束縛する事になるのだろうか。
 
 真朱が誰かと結婚する未来なんて、私には到底描けなかった。
 そんなの嫌だ。
 
 そんな事を考えていると、玄関のドアが開いた。

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