-Vermillion-

「大丈夫か?おい!しっかり……」
抱え上げた時に顔が見えて、俺は固まった。
加奈にそっくりだったからだ。

「真…朱…?」
女は虚ろな目で俺を見た。そんな、まさか……

「加奈?お前、加奈なのか?」
「そう、だよ…変、だよね…誰もいない、のに、こんな……」
「それ以上喋るな!今すぐ救急車を…」
その時加奈が、びっくりする程強い力で俺の腕を掴んだ。
「いいの…もう、遅いから…」
「何言ってんだ。諦めるにはまだ早いだろ。きっと助かる、大丈夫だ。」
加奈は首を振ると俺の腕を話した。
少し咳をして、震える手で俺の頬に触れる。
「あたし、には、分かるの…だから、お願い、こう…してて……」

俺は加奈を抱えると、強く抱きしめた。
頬に触れている手を取って、ぎゅっと握る。
「真朱…好き、だよ…」
「あぁ。」
「大、好き、だよ…」
「分かってる。」
「ずっと、ず…っと、大好き、だよ…」
「あぁ、分かってるから。もう喋るな。」

俺は加奈を膝で支えると、両手で頬を拭ってやった。
今度こそ、その涙をーー
親指で唇に着いた血を拭き取ると、俺は加奈にキスをした。
すべき事じゃないと分かっている。
でもこうする以外、他には何も頭に浮かばなかった。
今この状況で俺に出来る事なんて、何一つないんだから。

加奈はふっと笑うと、夢見る様な笑顔を浮かべてから目を閉じた。
「朱乃、に…怒られ、ちゃう、ね…」

背後から三人の声が聞こえた。叫んでここにいる事を知らせようか?
いや、いいだろう。今大声を出したら、加奈が起きちまう。
***
ーーー
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