state of LOVE
仕上がったレベッカは、いくつもの雑誌の表紙を飾っていた「MARI」そのものだった。

「貴方に縁深い方を参考に仕上げてみました。ご満足いただけましたか?MEIJIセンセイ」
「あー…うん。そうだね。なかなかだと思うよ」
「先生の腕のおかげですね。戻るぞ、ベッキー」
「ワタシ、まだ見てないデスヨ!」
「あぁ…ほら。お前のなりたかった顔だろ」
「oh!wonderful!」

鏡を見ると、自分ではなく「MARI」が見える。キャリア数十年の熟練した腕ならば、そう錯覚させることくらい容易いことだろう。

それを無意識にやってしまうのだから、彼の愛妻家ぶりには頭が下がる。

まぁ、半分くらいはイヤミだけれど。

「すげーな!佐野!」
「ん?ありがとう」
「さすがMEIJI先生の息子だな」
「んー…だね」

席へ戻る途中、鼻もちならない講師を負かした俺はヒーローで。

いや、そう思っているのは俺だけで、他はきっと純粋に褒めてくれているのだろうけれど。

だからこそ、「さすがMEIJI先生の息子」という賛辞という名の攻撃の矢が飛んできたりもするのだ。有難いことに。

「はい、皆静かに。そうだね。牧本さんの顔立ちにはあのメイクがよく似合うよ。服もモノトーンで纏めてるし。よくできました、佐野君」
「ありがとうございます」
「まぁ、皆もご存じの通り彼は僕の息子なわけだけど…ちゃんと講義を聞いてくれてるみたいで安心したよ。メイクをイメージすることも大切だからね。デザインだけに拘らず、皆も色々とやってみるといいよ。視野を広げることは悪いことじゃない。そのために、僕やハルなんかが特別講師として講義をするわけだしね」

涼しい顔をして纏めに入ろうとする様子に苛立ったのは、言うまでもなく俺だけで。

前の席の奴は振り返ってレベッカに何か話しかけようとしているし、話しかけられようとしているレベッカは鏡の中の自分の夢中だ。

やれやれ…と一息つく俺に、斜め前の席に座っていた女の子が振り返って笑った。

「さすがの佐野君でも緊張した?」
「え?いや。緊張はしなかったけど」
「なーんだ。つまんない。先生って、家でもあんな感じなの?」
「あー…怒らない限りは。まぁ、滅多に怒ることなんてないけど」
「そうなんだ。ねぇ、お母さんはどんな人?」
「はい?」
「噂になってるの。佐野君のお母さん、凄く美人だって」

あー…それは壇上の彼に聞いた方が…と言いたいけれど言えない俺に代わって、鏡の中の自分に夢中だったレベッカがハイッ!と元気良く挙手した。
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