state of LOVE
俺が作業を再開させて数分。自分の皿を綺麗にした聖奈が、まだ手のつけられていない俺の皿を見てふぅっと長い息を吐いた。

「美緒ちゃん、こっちでセナと食べましょう」
「やー!」
「叱った後に懐くかよ」
「お願いですからマナに迷惑をかけないでください。これを食べて、マナはお仕事に行かなければならないんですから」

何も子供相手にそんなことを言わなくても…と思うのだけれど、真っ直ぐに美緒を見据える聖奈の目が、そう口に出すことを許してくれなかった。

「あーもうっ。愛斗、貸せ」
「え?」
「食い終わったから見といたるわ」
「あぁ、すみません」

くしゃくしゃと頭を掻いたハルさんの表情は、やはりどこか複雑そうで。一体どんな妄想で楽しんでいるのだろうか。と、心を覗き込むために視線を合わせた。

「別に俺は、千彩を甘やかしてばっかやったわけちゃうぞ」
「何も言ってませんよ、俺は」

バツが悪そうに視線を逸らすハルさんと、あははーといつもならがに陽気に笑うケイさん。ハルさんの膝の上でそんな二人を見上げ、美緒はニコニコと楽しそうにしていた。

「はいはーい。がっしゃんしたあかんから片付けよなー」
「だー」
「お前、随分楽しそうやな。言うとくけど、陽彩の面倒は見んでええからな」
「えー!久しぶりの赤ちゃんやのに!」
「家庭を顧みろ、言うてんねん」

唇を尖らせながらも手早く皿を片付けるケイさんは、ハルさんよりもずっと子育て慣れをしているように見える。

「ケイさんの息子さんって、まだ小さいんでしたっけ?」
「小学生やな。恵介、太一いくつやっけ?」
「9歳なったとこやわ」
「まだそんなもんやったか」
「せやで。俺はお前らと違うて結婚したん遅かったからな」

よいしょ。と腰かけ、ケイさんは細い目を更に細めて美緒に手を伸ばした。

「うちも女の子が欲しかったわー」
「今から作ったらええがな」
「えー。今更?もう高齢出産なるやん」
「まだいけるやろ」
「うちはもうええってー」

よしよしと美緒の頭を撫でながら笑うケイさんは、どこからどう見ても子煩悩なパパだ。見知らぬ人から見たら、とても「家庭を顧みろ!」などと言われているようには見えないだろう。
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