state of LOVE
「ケイさんのせいっすからね」
「え?」
「代わりにレベッカに謝ってくださいよ」
「俺?」
「そうです。俺が代わりにちーちゃんのとこ行くんで」
「えー!」
「まだ言うかあんたはっ!」

いくらちーちゃんのことが好きでも、さすがに奥さんの前では慎むべきだと思う。

俺は「義理の母になるから問題ない」ということにしてしまっているけれど、さすがのメーシーでもマリーの前では慎んでいるのだ。

無駄な争いは回避するに限る。そうしなければ、世の中は上手く渡っていけないと知ってほしい。

「ハルさん、ちーちゃん待ってるんじゃないですか?」
「あっ!もうこんな時間やん!恵介の阿呆のせいで要らん時間食ったわ」
「あほ言うなや」
「お前が阿呆やなかったら、俺なんかもう神レベルの天才やな」
「あははっ。せーとの言う通りや」
「もー。りんまで…」
「帰るで。大好きなちーちゃんはまた明日や。今日はしっかり家族サービスしてもらうからな」
「はいはい。んじゃ、お先に」
「ちゃんと事務所に寄ってくださいよ?」
「わかってまーす」

ガックリと肩を落としたケイさんが、奥さんに強引に腕を引かれながら店を出た。去って行く嵐を見送り、ハルさんはどこか寂しげに呟く。


「これで家ん中が暫く静かやな」


何も、ケイさんの思いは一方通行はわけではない。一緒に仕事をしていればわかるのだけれど、ハルさんもハルさんでケイさんに惚れているのだ。

でなければ、あんな遅刻魔をパートナーには選ばない。俺なら絶対に嫌だ。

「また遅刻が増えるんじゃないですか?」
「大丈夫や。あっこの嫁は見ての通りしっかり者やからな」
「元カノ、なんですよね?」
「…喋ったんか。あの阿呆め」
「いいじゃないっすか。ちーちゃんには秘密にしておきますよ」
「千彩はもう知っとる」

意外な言葉に「へぇ」と短く言った俺に、今度はハルさんではなく聖奈が言葉を続けた。

「だから、だから…けーちゃんの奥さんはうちに来ないんです」
「あー…そりゃそうか」
「マナはいないんですか?そうゆう人」
「俺?俺の元カノは全員NY。今どうしてるかも知らねーよ」
「だったら安心ですね」
「心配要らねーよ」

よいしょと抱き直した拍子に、美緒がパチリと目を覚ましてしまった。あちゃーと肩を落とす俺に、寝起きの美緒がニッと笑う。

「ご機嫌ですねー」
「だー!」

これと、あれと、それと…まだ問題は山積みな気はするけれど、取り敢えず一つか二つ解決したからヨシとしよう。でなければやってられない。
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