ストロベリーライン・フォーエヴァー
 スロットルを限界まで吹かし、目の前に近づいて来る消波堤の終わりとその向こうに広がる海面を見つめながら、美咲は心の中でこう恨み事を言っていた。
 人間努力すれば必ず報われる?ふざけんじゃねえよ、誰だ?そんな事世間に広めた奴は?この世の中なんてしょせん、真面目に頑張った奴が馬鹿を見るんだ。他人の頑張りの成果を横取りするのが上手い奴だけが得するように出来んのがこの世間だろ。チキショウ、あたしにそんなきれい事教えて来た連中全員、あの世に行っても恨んでやる!
 やがてバイクの前輪が宙に浮き、美咲の167センチの長身はすうっと重力から一瞬解放された。美咲はサドルから体が離れてもバイクのハンドルを握りしめ続けた。こうすればバイクの車体が上から覆いかぶさった状態で水中に落下し、確実に死ねるからだ。
 もう夏とは言え飛び込んだ瞬間の海の水は冷たかった。予定通りバイクの車体にのしかかられる格好で美咲の体は海面下に沈んだ。青い水面の向うに、擦りガラス越しに見るような夏の陽光が見えていた。溺死って、意外と苦しくないんだな。そんな事を考えた数秒後、美咲は意識を失くしていくのをぼんやりと感じながら目を閉じた。
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