ストロベリーライン・フォーエヴァー
 女性は振り返って優しそうな声で女の子に言った。
「うん、大丈夫みたいよ。麻里ちゃんもこっちにいらっしゃい」
 すると麻里と呼ばれた6,7歳ぐらいらしい女の子は、ぱっちりとした目で美咲の顔を見つめながら小走りに先生と呼ばれた女性に近づきその背中にしがみつくような格好で彼女の頭の後ろからちらちらと顔を出して美咲を見つめ続けた。
「あの……」
 美咲はこめかみを右の指でとんとんと叩いて意識をはっきりさせようとしながら、その女性に訊いた。
「今その子が先生って言ってたけど、あんた医者?それとも学校の先生?」
 その女性は一瞬きょとんとした表情を浮かべ、そしてあはは、と笑いながら答えた。
「いえ、あたしは海岸の近くにある老人ホームの介護福祉士よ。一応ケアマネージャーの資格を持ってて施設を仕切っているもんだから、ホームのおばあちゃん達が『先生』なんて呼ぶようになっちゃてね。そしたらご近所の人たちからまでそう呼ばれるようになっただけ。医者とか教師とか、そんな御大層なもんじゃありません」
 麻里という女の子は相変わらず、先生と呼ぶ女性の背中に貼りついて頭だけをちらちらと先生の肩越しにのぞかせながら何も言わないでいる。それに気づいたその女性が言った。
「こら、麻里ちゃん。ちゃんとご挨拶しなさい。ごめんなさいね。田舎町だから外から来た人が珍しくてしょうがないみたい。あ、あたしは吉川理沙。みんな吉川先生って呼ぶけどね。あなたの名前、聞かせてもらえるかしら?」
「ミサキ……藤代美咲……」
 素っ気なく美咲は言葉を返す。吉川先生は「えいっ!」と声を発して麻里ちゃんの体を抱えて自分の前に引っ張り出し、美咲の前に立たせた。
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