女の隙間、男の作為
『業務で独占してるんだから、夜は俺が独占しても問題ないだろ』

いえいえ。問題ありまくりですけど。
なにその誤解をふんだんに含んだ発言。

“えー。俺ですらまだカノとは未遂なのに新入りに先を越されるのは口惜しいー”

黙れ結城。
まるであんたまであたしに気があるみたいに聞こえるじゃないか。

「最近うちの部長達があんた等三人のことを『カノ劇場』って呼んでるのも納得の三角関係ぶりだよね」

瑞帆の言葉に柔らかめの白米が喉に詰まった。
苦しい。

「なななななんじゃそりゃ!なんちゅう迷惑な劇場…」

「いやそれあんたが言うことじゃないし」

“結城か松岡か。
結構いいオッズになってるみたいよ”

人を賭けのネタにするのはやめてくれと次の部会で申し立てるべきかもしれない。
なんであたしが愛憎劇の主役やら賭けの対象にならなくちゃいけないの。
セクハラかパワハラかとにかく適当な理由をつけて人事に訴えるべきだ、絶対に。

「勘弁しておくれ。あたしは被害者なのに」

「まぁあんたが好き好んで今の状況にいるわけじゃないことくらいあたしはわかるけどさー」

“あの子達はそうもいかないんじゃない?”

瑞帆が目配せする“あの子達”とはつまりあたし達のテーブルから二つばかり離れたところで女子会ランチさながらの大人数で固まっている後輩集団のことでまず間違いない。

恐ろしいからわざわざ振り向いてまで確認しようとは思わないけれど、ほぼ全員の顔を名前を思い浮かべることもできた。

つまり結城と松岡に熱い視線を送り続ける至極全うな感覚の若い女の子達。

「でもあたしが職場の男とどうこうならないなんて知れ渡ってるのに…」

「でもあんな情熱的にアプローチしてるのを見てたらやきもきするのが当然なんじゃないの。
それにあの二人に言い寄られて断り続けるのもそれはそれで癪に障るだろうし」

「いったいあたしにどうしろと…」

松岡も結城もどちらともどうこうなるつもりもないのに、年下の女の子達から疎まれるとか本気でめんどくさい。

「あいつ等…仕事だけしてくれればいいものを…!」

数字が良いだけに惜しい。
黙って仕事だけしてくれればいくらでもサポートするのに。
たまの軽口くらいならちゃんと面白可笑しく乗ってあげるし、酒も食事もいくらでも付き合う。
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