シンデレラに玻璃の星冠をⅡ

「紫堂玲。早く2人だけを連れて戻って来い。いいな、旭より早く帰って来るんだ!!!」


気だるげな顔は、幾分必死で。


知っているんだろうな。

判っているんだろうな。


あの破壊的な料理に、

何が入っているのかも。


怯える久遠を見るのは面白い。


だけど。


久遠にその恐懼があるのなら。


僕が帰るまで、久遠は意地でも生気を漲らせる。

あの"しちゅ~"を食べたくない為に、元気になろうと頑張るだろう。


生存本能が奇跡の回復力を見せるか。


あの料理とも言えないモノは最悪だったけれど、確かに僕も回復出来たし。

そう思えば…


「回復結界より、あれを食べた方が回復を早いんじゃ?」


味は…お奨めできないけれど。


「オレを、殺す気か!!!」


そう嫌悪に顔を歪ませる横で、

由香ちゃんと蓮が複雑そうな顔を見合わせていた。



「必ず、せりを無事に連れ戻せ。

紫堂櫂は…せりの近くに居る。

きっと…せりを探している」



――紫堂櫂を愛してる!!!


痛むのは僕の心臓か、僕の心か。


芹霞に会いたいのは山々。

櫂を見つけたいのは山々。



だけど…。


どうしても僕の足が動かない。


心配なのは、久遠の傷だけではない。


血の痕跡を残し、この屋敷から消えた人々。

簡単に黄色い外套男が入り込んだ…術が解けたこの屋敷に。


唯一の術者が倒れたとなれば…

残された者達を誰が助ける?


鏡というモノだけに頼って切り抜けるか?


蛆や蚕、蝶、スクリーン、虚数、生ける屍。

それが一斉に屋敷を襲ったら?


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