シンデレラに玻璃の星冠をⅡ
「久涅。呼び鈴を鳴らしても蓮が来ないと思ったら…蓮に何するんだ。オレの着替えを蓮が用意出来なかったら、お前が用意してくれるのか」
あくまで何事もなかったかのように、各務家の偉そうな当主は平然と言いのける。
俺は――
"自分の着替えくらい自分で用意しろ"
と言いたいのをぐっと堪えた。
「お前の着替えなど知るか。
それより久遠。こいつは誰だ」
一蹴して、久涅が俺を一瞥しながら不審げに聞く。
「何でお前に、メイドをいちいち紹介や説明をしないといけないんだ? オレが何処の誰をどう使おうと、オレの勝手だろう」
一応…庇ってくれているらしい。
「久遠、隠すな」
しかし久涅も引かず…。
「この女は"凜"。由香達が初めて"約束の地(カナン)"に来た…直後辺りに、海岸沿いに倒れていたのをオレが連れた」
オレに向ける久遠の瞳は――
隠しようのない紅紫色で。
久遠…。
何でそんなにお前の目は正直なんだよ。
何でいつものようにひねくれてないんだよ。
遠坂もそれに気づいたのか、冷や冷やしながら久遠を見つめていて。
久遠は気づいていないらしい。
無言で自分を見つめる久涅の視線だけを受けている。
「何だよその疑いの目は」
「久遠。お前は言霊使いだ、
お前から紡がれる言葉の重みは判っているだろう。
真実の言葉を穢すな」
久涅が久遠を威嚇するように、目を細めた。
それに呼応するように…紅紫色の瞳も細められる。
瞳の色が変わる。
紅紫色から…瑠璃の色へと。
いつもより、より深い藍色へと。
「知った口を聞くな、久涅。
お前に指図される謂れはない」
それは激情というより…冷淡な色の瞳。
感情を殺している、静かなる殺気。