シンデレラに玻璃の星冠をⅡ


「それでもいいなら…ほんの少しだけ手助けしてやる。だからほんの少しだけ信用していい」


あくまで"ほんの少し"だけれど。


「だったら、俺達もほんの少し助けてやる」


聞いていたらしい煌が、不敵に笑った。

漆黒色の主のような笑い方で。


「ギブアンドテイク。

だから…変な"縛り"は抜きにしろよ」


それを受けた朱貴は笑った。



"契約"は成立した。



「これが…紫堂櫂…?」


目と口を開けるにいいだけ開け、凝固して動かなくなった皇城翠を抜きにして。


「嘘だろ、どう見ても…似てるだけの女じゃねえか。

俺…女だと思って実は男だったら、絶対立ち直れない」


何かぶつぶつ翠が言っていたけれど。

私には関係ない。


画面では――


無口な久遠に成り代わり、久涅が滔々と喋っている。


それを見つめるのは…

強張った顔の櫂様。



朱貴は、今テレビに流れている映像は、"別の映像"だと言ったけれど。


違う。


この映像は…


私達と同じ時間が流れている。

偽装じゃない。


現に朱貴も、現在進行形として扱った。


何より目に映っているものは真実だと、

私の心が告げている。


久涅が居る"約束の地(カナン)"。


不安は募る。


櫂様だと…判られているのか否か。


玲様なら…どう判断されるのだろう。


ああ。


もしばれたのなら。


今度こそ、櫂様をお守りしたい。


だけど…


――助けてくれ。


玲様には時間制限がある。


そして私達は――

玲様を助けるのだと約束したんだ。


"約束の地(カナン)"に現われた久涅。

映像上今の処異変はなく、私の不安が大きいだけ。

そしてあの地には久遠らがいる。


時間稼ぎはして貰える。



だとしたら…


私は唇を噛みしめた。


「桜。両方行くぞ」


煌は事も無げに言いのけた。



「どっちか切り捨てろなんて、櫂なら言わねえ。

さっさと動けば…

"約束の地(カナン)"にも間に合う」


決意に満ちた褐色の瞳。


「選択するんじゃねえんだ。

"優先順位"を変えるだけ。

まずは七瀬だ」


いつもいつも迷い惑って揺れまくる脆い精神を持つ癖に、こういう時はぶれない馬鹿蜜柑。


それでも判る。


それが最良の方法。



少しお待ちください、櫂様。


こちらを早く片付けて――

私達は"約束の地(カナン)"に参ります。


それまで…

どうか…ご無事で。


そんな私を――

朱貴が翳った顔で見ていることに気づくことなく。


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