ショコラ~愛することが出来ない女~


「……ちょっと落ち着いて話そう」


彼は冷静さを保とうとしている。私に怒り出したいのを必死で堪えて。

それがYesマンだってこと、きっと気づいてない。

恋愛は、感情が大きい方が弱い。
嫌われないようにと相手の愛情を伺い、『いいよ』といい続ける。

あなたの前の奥さんもきっとそう。
きっとまだ、あなたのことを忘れていないんだわ。


「多分落ち着いても一緒よ」

「いいから。俺の部屋が近い。そっちに行こう?」

「……ええ」


一緒に歩きながら、話一つ出来ない。
気まずさに打ちのめされそうになる。


 庄司くんのアパートの前まで来たとき、前を歩いていた彼が立ち止まった。


「……亜衣」


呟かれたのは、舞ちゃんと似た語感の女の人の名前。
背中越しに彼の部屋の前を見ると、一人の女性が立っているのが見えた。


「前の奥さん?」


私の呟きに、庄司くんは絶句したままだった。





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