今日で終わりにしてくれますか

彼女よりも彼







「紅鈴」

「ね、紅鈴、デートしよ!」

「紅鈴大好きぃ」


冬が終わった三月、今まで以上にたち、颯人が喋るようになった。そう言うとかなり語弊がある

なんていうか、今まで以上に私に甘くなった


全体的に、甘いのだ。声とか仕草とか、私の扱いとか


付き合ったことがないから、よく分からないけれど。それでも、文字通り颯人が私を大事にしてくれていることだけは、理解出来た

彼が人間を好きで、だけど理解が出来ない人だと言うことを私は聞いた。だから余計に、私に甘いんじゃないのかな


本当にそれは、恋心から出来た感情なのか


その台詞だけは、どうしても本人に聞くことができなかった


それは、刷り込みというやつではないのか。貴方は何か、勘違いしているのではないの?

ずっとずっと、奥底に沈んでいた感情


だけどそれを口に出さないまま、私は穏やかに、白い季節を越そうとしていた



私は何一つ、日常の彼を知らないんだ、ということに暫くしてから、始めて気づいた


「紅鈴ちゃん、次の数学さぁ、宿題出てたっけ?」

「へ?あー、出てたと思うよ」

「ありがとー!」


教室でひとり、ぼんやりと過ごす。白い空を横目に見ながら溜息を吐いて、この感情をやり過ごした


< 264 / 277 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop