ルージュはキスのあとで
 そうよ! と彩乃はトンと胸を叩いた。

 そんな彩乃の顔は、キラキラと輝いていてなんだか羨ましかった。

 彩乃はかわいい。
 お世辞抜きでかわいいと思う。

 小柄な体、大きな瞳。

 いいなぁと前に彩乃に言ったら返ってきた答えは「こんなのどうとでもなる」だった。

 どうやったら、どうにかなるというのだろうか。

 私は、彩乃に比べれば体のつくりも、顔のつくりも平凡。
 可もなく不可もなく、そんな感じだ。

 ファッションセンスもなければ、メイクだってめちゃくちゃ苦手。

 社会人のたしなみとして一応薄化粧をしているけど、これが正しいメイクの仕方かどうかなんてわからない。
 
 社会人になるとき、化粧品売り場のお姉さんに「なにが必要ですか?」と聞いて、基礎中の基礎の化粧品を揃えただけだから、これをどう使っていいものかもよくわかっていない始末。

 彩乃の心配しているとおりで、女子力に欠けるんだよね。


 それに、社交性も乏しい。

 とりあえず女の人とは、普通に話せても男の人はからっきしダメ。
 話す以前に、近寄るのもなんだか怖い。

 中高一貫の女子校を出て、そのまま付属の女子大に進んだ私にとって男との付き合いなんて皆無に近い。

 いわゆる青春と呼ばれる時期は、女の園で育った私。

 それに不満があるわけじゃない。
 
 女子中、女子高、女子大と楽しく過ごしてきた。
 そんなに友達が多かったわけじゃないけど、親しい友人は何人かいる。

 それだけで幸せだった。
 今もそれでいいと思っている。いや、思っていた。
 だけど、彩乃にここまで心配されると、さすがの私も少しはどうにかしたようがいいのかなぁと少しだけ気になる。

 無言のままファッション雑誌を指で突く私に、彩乃は腕時計を見て叫んだ。



「あ、ヤバイ! 今日、お茶出し当番だった! 行ってくるね」

「うん。いってらっしゃい」



 大慌てで社員食堂を出て行く彩乃の後姿を見送りながら、文庫本とファッション雑誌の表紙を見比べる。

 自分とともに片時も離れずにいた文庫本と、自分とは縁遠いカラフルで写真がいっぱいのファッション雑誌。
 気軽に手を取ることができるのは時代ものの文庫本だけど、少しはこういった雑誌も手に取るべきなのかな……。

 それにしても、と彩乃がいなくなった席を見つめて、先ほど言われた言葉を思い出す。


「運命の人かぁ」


 とコーヒーを飲みながらため息をつく。



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