愛を教えて ―番外編―
美月の理路整然とした台詞に、老人だけでなく結人まで声を失う。


「あ、でも、母方の資産は? 全部受け継いだら結構な額になるんじゃ……」


結人に悪気はない。ただ、思いついたままを口にしただけだ。

しかし、美月は呆れた様子で、「それは私のほうが金になるって言いたいわけ?」と睨みつけた。


その直後、老人は急にふたりの縄を解き始めたのだ。

結人は驚いて尋ねる。


「あの、僕らのこと、どうするんですか?」


老人は薄く笑うと首を左右に振った。


「子供を誘拐して、胆をつぶすような思いをさせてやろうと思ったんだが……。冷酷な経営者ともなると、我が子が誘拐されてもなんでもないようだ。悪かったな……どんな親でも子供には罪はない。巻き込んで済まんかった」


老人はクルリと背中を向け、鉄製の階段を一段ずつ降りて行く。

結人は鞄を掴み、急いで老人の後を追った。


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