愛を教えて ―番外編―
現在、藤原グループの力は日本経済界で敵なしだった。

この地域に住む多くの人間が財界に属する。そのせいか、彼らは皆、滑稽なほど藤原の名前に気を遣った。幼稚園にしてもそうだ。多額の寄付をする藤原家に気を遣い、逆に、藤原と敵対関係にあった美馬グループの生き残りである彼らに冷たくあたる。

万里子が望んでいるわけでもないのに……幼稚園や小学校のPTAでは、藤原を頂点としてグループが出来上がり、愛実をのけ者にしている印象があった。

万里子は卓巳に気遣い、なるべく愛実と関わらないようにする一方で、周囲には「園や学校と会社の対立は別」と言ってきたのだが……。


(きっと、大人の事情が子供たちの関係に波風を立たせているのだわ。これ以上……卓巳さんの気持ちを優先していられない)


万里子はそんな覚悟を決めて、美馬家を訪れたのだ。


「“様”なんて呼ばないでください。同じ園児の父兄じゃありませんか。……子供たちに仲良くなってもらうためにも、わたしたちがもっと仲良くなったほうがいいと思うんです」

「……でも、主人は」


躊躇う愛実の動作で、すぐに気がついた。愛実の夫も卓巳と同じような不満を口にしているのだろう、と。


「会社は会社、わたしたちとは何の関係もありません。どうぞ、万里子と呼んでください。えっと……愛実(まなみ)さん?」

「いえ、愛実(いつみ)と読みます」

「長男同士も同じ学校にいるのに、こうしてお話するのは本当に初めてね。これからもっと、仲良くしてくださいね、愛実さん」

「……はい……」


愛実は少し不安そうに、それでいて母親らしい強さを見せて微笑んだ。


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