愛を教えて ―番外編―
『ああ、なんとかグルメという大会で優勝して、美味しいと評判の焼きそばだ! 専門家が最高の味を提供してくれる。スタッフ十人ほど連れて来てくれることになったから、私たちは見ているだけでいい。これなら美馬には負けんだろう!』

『た……卓巳さんっ!』


誇らしげに宣言する卓巳に、万里子のカミナリが落ちた。



雪音はお腹を押さえ、堪えきれずに笑っている。


「そんな予算はないと言ったら、全部自分で出すって言うのよ。そういう問題じゃないのに……」


テーマはエコロジー。それについて意識することが目的なのだ。

私立の幼稚園、しかも都内でも有数の高級住宅地にある。通っているのは上流階級の子弟がほとんどだった。当然、新品同然でも制服のリサイクルなど論外。幼稚園バッグやハンカチなど高級ブランドの名前がついている品物も多い。

でもだからこそ、環境について率先して考えていかなければならない、と思い、始めたことと聞いている。今年で十回目になるという。

提供する食べ物は手作り。幼稚園の施設を使って作れるよう、保健所からは毎年許可を取っている。来場者はそれぞれ皿や箸、スプーンを持参。持ち帰りは厳禁で、その場で食べてもらうことになっていた。販売価格もマイルドセブンひと箱より安い。


「パパやママが作ってるってことに意味があるのに。それを卓巳さんたら、勝ったの負けたのって」

「でも、納得はしてくださったんでしょう?」

「まあ、それはそうなんだけど……」


きっちり、前日の準備から手伝いに入ってくれるよう、万里子はあらためて約束を取り付けたのである。


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